原作者として、
映画業界の性暴力・性加害の撲滅を求めます。

私たち、物語の書き手と映画業界は、特殊な関係にあります。私たちは、映像化のお話をいただき、許諾することはできても、制作に関わることはほぼありません。演者の方々が登場人物に息を吹き込み、想像でしかなかった物語がスクリーンに映し出される感動は、作者として何にも代えがたい幸せです。けれどそれが、どのような環境で作られるか、私たちは知り得ないのです。

原作者の名前は、映画の冒頭にクレジットされ、その作品がいかなるものであっても、自分の生み出した物語である責務を負います。映画制作の現場での性暴力・性加害が明るみに出たことは、原作者という立場で映画に関わる私たちにとっても、無関係ではありません。不均等なパワーバランスによる常態的なハラスメント、身体的な暴力、恫喝などの心理的な暴力等が、業界の体質であるように言われるなかで、今回、女性たちが多大なリスクを背負って性被害を告白したことは、業界の内外を問わず、重く受け止めるべきと考えます。声をあげてくださった方々の勇気に応えたく、私たちは、連帯の意志を表明します。

映画業界の内部にいる人たちが、今回の件について意思を表示しづらい状況にあることを、関係者を通じ、目の当たりにしました。外部にいて、なおかつ特殊な関係性を持つ原作者である私たちならば、連帯し、声をあげられるのではないかと考えたことが、このステートメントを発表したきっかけです。この声明が、閉じた世界で起こる性加害の抑止力になることを願います。同時に、出版界でのセクシュアルハラスメントを根絶するために、これまで我々が立ち上がってこなかったことへの自戒と反省でもあり、今後は変えていきたいという意志表明でもあります。そしてまた我々自身も、ハラスメントの加害者になりうるという意識を持たなくてはなりません。映画界が抱える問題は、出版界とも地続きです。

映画制作の場が、これほど性加害を生みやすいことが周知された今、環境そのものを大きく変えてゆく必要があるのではないでしょうか。二度とこのような事態が起きないよう、私たちも、契約の段階から、適切な主張をしていきたいと思います。今後、万が一被害があった場合は、原作者としてしかるべき措置を求めていけるよう、行動します。また、このことについての理解と協力を、出版業界にも求めます。


私たちは物語を安心して委ねられる映画業界を望みます。


2022年4月12日


文責
山内マリコ
柚木麻子

賛同者
芦沢央
彩瀬まる
井上荒野
小川糸
窪美澄
津村記久子
西加奈子
蛭田亜紗子
ふくだももこ
三浦しをん
湊かなえ
宮木あや子
村山由佳
山内マリコ
山崎ナオコーラ
唯川恵
柚木麻子
吉川トリコ

(五十音順)